経営者保証ガイドライン

Q 経営者として法人の債務の連帯保証を行っていますが、経営を退く場面として、例えば、事業承継で後継者に事業を引き継ぐ場合や、法人が債務を返済できずやむを得ず廃業に至る場合において、保証債務はどのように扱われるのでしょうか。

インターネット上の誹謗中傷

Q インターネット掲示板等に自社に関わる誹謗中傷が投稿された場合、どのように対処すればよいですか。また、自社の従業員等がSNS等で業務に関連した不用意な発信をしないようどのように教育すればよいでしょうか。

廃業手続

Q 会社を経営しておりましたが、廃業を決意し、会社をきれいに終わらせたいと考えていますが、会社の財務状況に応じて、どのような手続きを選択したらよいのでしょうか。

準備中

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経営者保証ガイドラインの適用要件についての留意事項、保証解除の際の考慮事項、残存資産の考え方について

Q 経営者として法人の債務の連帯保証を行っていますが、経営を退く場面として、例えば、事業承継で後継者に事業を引き継ぐ場合や、法人が債務を返済できずやむを得ず廃業に至る場合において、保証債務はどのように扱われるのでしょうか。

中小企業を主債務者とする債務には、経営者等が連帯保証を行っていることが多いかと思いますが、経営者等が経営を退く場面として、例えば、事業承継で後継者に事業を引き継ぐ場合や、法人が債務を返済できずやむを得ず廃業に至る場合において、保証解除がどのようになされるのか、経営者保証ガイドラインの適用について説明します。

 (1)事業承継等の場合

事業承継は、現経営者から、その子、会社役員、従業員又は社外の取引先等へ会社の事業を引き継ぐことを言いますが、その際、現経営者の保証解除と後継者の保証契約の締結が問題となります。

この際、債権者側の対応としては、経営者保証ガイドライン第6項(2)②に以下の記載があります。

(引用)

対象債権者における対応

イ)後継者との保証契約の締結について

対象債権者は、前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、第4項(2)に即して、保証契約の必要性等について改めて検討するとともに、その結果、保証契約を締結する場合には第5項に即して、適切な保証金額の設定に努めるとともに、保証契約の必要性等について主たる債務者及び後継者に対して丁寧かつ具体的に説明することとする。

ロ)前経営者との保証契約の解除について

対象債権者は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断することとする。

(引用終わり)

経営者保証ガイドラインでは、このように、債権者に対し、後継者との保証契約締結について十分に必要性等を検討したうえで丁寧に説明することが求められており、また、前経営者の保証解除について適切に判断することが求められています。

「中小企業白書」(2019年、中小企業庁)や「「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」(2019年、金融庁)によれば、事業承継時の保証契約の二重徴求(後継者と新規保証契約を行い、かつ前経営者の保証契約を解除しないこと)の件数の割合は、近年減少傾向にあり(二重徴求の割合が2016年下半期の46.2%から2018年下半期の17.9%へ減少)、経営者保証ガイドラインの浸透が図られているものと考えられます。とはいえ、「「経営者保証に関するガイドライン」等の実態調査結果」(2018年、金融庁)によれば、金融機関ごとに保証契約の取り扱いは大きな差がありますし、信用保証付の貸付金とプロパー(信用保証がなされていない)の貸付金では、前者のほうが二重徴求の割合が高い傾向がありますので、事業承継の際には取引金融機関と十分に協議することが必要と思われます。

 (2)債務超過の場合

法人が債務超過であり法人の整理(法的整理又は私的整理)が行われる場合、債権者の保証履行請求が顕在化することになりますので、法人債務の連帯保証人は、自己の私財をもって弁済する義務を負うことになります。

このような場合の残存資産の目安について、経営者保証ガイドライン第7項(3)③に記載があります。当面の生計費として、破産手続の場合の自由財産として認められる99万円と、民事執行法上の1か月の標準的生活費の目安が33万円なので、これに雇用保険の給付期間で、年齢や勤続年数で変動する月数(3~11月)をかけた合計額となります。だいたい300~400万円台の金額にはなってきます。

「華美でない自宅等」も残せるとされていますが、具体的に何をもって「華美」というのか感覚的な評価にならざるを得ないところです。一般的な住宅であれば残す余地は十分あるものと思います。とはいえ、法人の債務で担保に入っている自宅は残せませんので、通常は親族等が買取して、その家を貸してもらって住み続けることが多いと思います。なお、法人の債務ではなく住宅ローンで担保が設定され、オーバーローンとなっているような場合も、実質的に無価値と評価して自宅を残してそのままローンを支払って住み続けることも可能です。

「華美でない自宅等」に「等」がついているところの解釈にも関わりますが、法人の整理と一体なものと評価し、このまま破産に至った場合の法人と保証人の清算価値(破産して債権者に配当できる価額)と、早期に事業を承継又は廃業させることで得られる経済的価値の増加分との差額を残存資産の許容額として考慮できるので、その残存資産の許容額の範囲内であれば、保証人の残存資産の必要性、例えば、高額医療費、子供の学費など、根拠を説明し債権者が了解するものであれば、当面の生計費と合わせて、1000万円を超えるような資産を残せる事例もあります。経営者保証ガイドラインを利用した保証解除の事例については、「「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集」(金融庁)にも記載があります。

判断の基準となるものは、経済的合理性(つまり破産させるのと、弁済計画に沿って回収するのとでどちらが多く債権を回収できるのか)ではあるものの、債権者である金融機関といえども心情的なところもありますので、残存資産については、破産と同等の処理とするよう金融機関から厳しい主張がされる場合もあるのは事実です。

なお、金融機関としては、債権放棄を伴う処理となりますので、損金処理上、課税当局から指摘されるリスクを軽減するため、再生支援協議会、REVIC、ADR、特定調停等、公正な第三者が関与するスキームで処理を要望してくる場合が通常ですので、法人の債務整理と一体として経営者等の保証解除の処理を行う場合には、そのような手続きに詳しい専門家に相談することが肝要と思われます。

 (3)ガイドライン適用に当たっての留意点

こういっては失礼かもしれませんが、中小企業さんであれば、会計処理の不備は多々あろうかと思います。例えば、在庫の水増し、架空売り上げ、滞留債権の未処理など、このような不適切な会計処理がなされている法人の保証人に経営者保証ガイドラインが適用できるのか問題となります。

経営者保証人について、ガイドラインの適用前提条件には、財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していることが含まれますので、この条件に抵触しうることになります。つまり、経営者等が指示して粉飾処理をしていたような事案で問題になります。

ガイドラインが適用できないと、任意で保証解除できませんので、破産せざるを得ない状況になりかねません。この点、ガイドラインのQ&Aでは、粉飾決算みたいなことがあっても、直ちにガイドラインの適用を否定しないで、総合的に勘案して判断しましょうというような表現となっており、不適切な会計処理の内容や程度によって判断がなされるものといえます。

インターネット掲示板等による誹謗中傷の書き込み等の対応について

Q インターネット掲示板等に自社に関わる誹謗中傷が投稿された場合、どのように対処すればよいですか。また、自社の従業員等がSNS等で業務に関連した不用意な発信をしないようどのように教育すればよいでしょうか。

現在、インターネット上にはあらゆる情報が氾濫し、個人であっても、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、掲示板等、全世界に向けて容易に情報を発信できる環境にあります。顧客や競業者等の第三者から、企業の商品や顧客対応等について、いわれのない誹謗中傷を投稿され、拡散されるような場合もあるかもしれません。

また、企業の従業員が本来発信すべきでない勤務中の体験や情報(例えば有名人のプライベートな来店情報、顧客に対する暴言や差別的な表現等)を発信し、拡散されることで、当該企業について社会的な信用を失う等の大きな損害が生じる危険があります。

最近では、「バイトテロ」と呼ばれるように、営業店舗の従業員等が、「悪ふざけ」で、ことさら不衛生な行動したものを撮影して、その動画をインターネット上に公開し、当該企業が謝罪に追い込まれる事例も多くみられます。このような場合、単なる「悪ふざけ」で終わるのではなく、当該従業員等は、企業に生じた損害に対する賠償責任や、懲戒解雇等の制裁を負う可能性もあります。

企業としては、このような事案が発生した時にどのような対応をすべきか、また、業務に関連して不用意な投稿がなされないよう従業員をどのように教育すべきか問題となります。

 (1)第三者による誹謗中傷等の対応

①削除依頼

通常、誹謗中傷を投稿した者は匿名であることが多いと思いますので、投稿者に削除要請することも困難ですし、投稿者が削除に応じるかどうかも分かりませんので、まずは、その投稿のあったサイトの運営者に対し、削除依頼を行うことになろうかと思います。概ね主要なサイトであれば、トップページのリンクに運営者の情報とともに削除依頼に関する記載がでていることが多いです。削除依頼にあたっては、通常、申請者の氏名、連絡先、削除対象、削除理由等を求められますので、書き込みのあったサイトのURLと記載内容と特定したうえで、なぜその投稿が自社に関する表現といえるのか、自社のどのような権利が侵害されているのか(通常は名誉権かと思われます。)など理由を説明することが求められます。

サイトによっては、削除依頼の内容自体が公開される場合もあり、そのことでさらに拡散の原因となる可能性もありますので、削除依頼の手続も事前に確認する必要があります。

次に、運営者やプロバイダに対し、「送信防止措置依頼書」を送付して、削除依頼を行う方法もあり、運営者等が投稿者に対し照会を行ったうえで(投稿者の連絡先が分かる場合)、削除の判断を行います。

また、裁判所の手続を利用することも可能です。削除の仮処分の申立を行い、仮処分の決定が出れば、通常、運営者やプロバイダは削除に応じてくれます。なお、運営者が海外を拠点とする場合には、訴訟手続上(海外法人の謄本の取得・和訳、送達方法、裁判管轄等)、かなりの費用と労力が必要となります。

②発信者の特定

削除だけでなく、投稿により損害が生じ、投稿者に対し賠償を求めたい場合には、投稿者を特定する必要があります。この場合、運営者等に対し、投稿者を特定しうる情報として、IPアドレスとタイムスタンプ(サーバーへのアクセス日時)の開示を求めることになります。IPアドレスは、投稿者の利用するサービスプロバイダの特定情報となります。

IPアドレス等の開示には、「発信者情報開示請求書」を利用する方法のほか、裁判所の発信者情報開示の仮処分の申立を利用できます。なお、削除の仮処分は、損害発生場所である被害者の所在地を管轄する裁判所へ申立が可能ですが、開示の仮処分の場合には、相手方となる管理者等の所在地を管轄する裁判所へ申立する必要があります。

IPアドレスが開示されれば、投稿者の利用するサービスプロバイダの特定ができますので、次に、当該サービスプロバイダに対し、発信者情報開示請求訴訟を提起することになります。なお、サービスプロバイダがログを保管している期間は短いもので3ヶ月程度といわれていますので、保管期間を経過してしまうと、IPアドレスとタイムスタンプから契約者情報を照会できなくなりますので、発信者情報開示の仮処分は迅速に行う必要があります。また、必要に応じて、サービスプロバイダに対しては、発信者情報消去禁止の仮処分を求め、ログの消去を防ぐことも可能です。

なお、開示が認められた場合、開示されるのはサービスプロバイダの契約者情報となりますので、必ずしも投稿者と同一ではないため、さらに投稿者の特定を要する場合もあります。

(2)従業員教育について

まず、SNSの特徴として、投稿者が特定のコミュニティのみに発信する意図を有していたとしても、転送等により、特定のコミュニティだけでなく、全世界に情報が共有され得る点について、意識が欠落している場合があろうかと思います。意図せず自己の発信した情報が拡散するリスクを十分把握することが必要と思われます。

また、社会通念上、「悪ふざけ」ではすまされない行為や表現であっても、インターネット上では様々な情報や表現が氾濫していることもあり、自分の投稿も許容されるのではないか、また、当該投稿により「自分だけができる、自分だけが知っている」等の自己顕示欲などにより注目を集められるのではないかと短絡的に考え、熟慮や自制することなく、投稿してしまうこともあろうかと思います。やはり、社会通念上許容できない行為や表現について、常識的な判断ができるよう日常的な生活環境や感性が重要になろうかと思います。

インターネットは、匿名性が高いシステムとはいえ、上記のような手続きにより、投稿者は特定しうることになりますので、匿名をいいことに誹謗中傷を行ったとしても、のちに、投稿者が特定されたうえで、投稿によって生じた損害を請求され、懲戒処分等の重いペナルティーを課されるリスクがあることも十分に理解しておく必要があります。

従業員に対しては、このようなSNSの特徴や、投稿がもたらす結果について、十分理解を促し、基本的には業務に関わる個人的な投稿は極力発信しないよう求めることが肝要かと考えます。

廃業時の手続きとして、通常清算、特別清算、破産等の概要や手続の流れについて

Q 会社を経営しておりましたが、廃業を決意し、会社をきれいに終わらせたいと考えていますが、会社の財務状況に応じて、どのような手続きを選択したらよいのでしょうか。

経営者の高齢化に伴い、廃業を選択する中小企業が増加傾向にあります。廃業に当たっては、企業の資産・負債の状況を踏まえ、資産超過であれば通常清算、債務超過であれば特別清算や破産による処理が選択されます。

ここでは、通常清算、特別清算、破産等の諸手続について、その概要を説明します。

(1)通常清算

資産超過の場合であれば、保有する資産ですべての債権者に対し弁済を行っても余剰の残余資産が生じることになります。営業を停止し、会社解散後、清算人(通常、従前の代表者が就任します。)が保有する資産を換価したうえで、債権者へ弁済を行い、なお残余資産がある場合には、株主に配当を行い、清算手続を終了させます。

通常清算では、裁判所が関与しませんので、すべて企業側で手続が完結します。具体的な流れとしては、①解散・清算人の選任(株主総会決議等)、②解散登記、③債権届出(官報公告)、④解散時の財産目録等の作成・承認(株主総会)、⑤資産換価、⑥債権者へ弁済、⑦残余財産がある場合株主へ配当、⑧最終的な決算報告の承認(株主総会)、⑨解散結了の登記、⑩会社登記閉鎖、で会社が消滅します。

(2)特別清算

「清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること」又は「債務超過の疑いがあること」に該当する株式会社の場合は、特別清算を選択することになります。なお、特別清算の場合、基本的には債権者との間で、事前に特別清算による債権放棄を行うことについて同意を得るか、同意が得られる可能性が高いことを前提に選択することが多い手続と思われます。なお、手続きを利用する前提として、公租公課や労働債権等、優先的な債権については弁済しうるだけの残存資産が必要となります。

特別清算手続では、和解型と協定型とがあり、前者は各債権者との間で個別に和解契約(弁済及び債権放棄の合意)を締結し、裁判所の許可を経て、効力を生じさせるものです。後者は、債権者集会を開催し、協定案について承認決議を経る必要があり、協定案は、決議参加債権者の過半数、かつ、総議決権額の3分の2以上の賛成があれば可決します。

この点、和解型のほうが簡易迅速な処理が可能であるものの、債権者において債権放棄による損金算入について、課税当局から指摘を受けるリスクを軽減する趣旨から、和解型ではなく協定型を求められることもありますし(東京高判平成29年7月26日判決の影響)、積極的に同意することはしたくない(すなわち和解はしたくない)ものの、反対もしないといような意向の債権者がいる場合にも協定型が選択されることになります。

具体的な流れとしては、①解散・清算人の選任(株主総会決議等)、②解散登記、③債権届出(官報公告)、④解散時の財産目録等の作成・承認(株主総会)、⑤資産換価、⑥特別清算の申立、⑦和解案又は協定案の提示、⑧和解許可又は債権者集会における協定案可決、⑨和解又は協定に基づく弁済及び債権放棄、⑩終結決定・登記嘱託、⑪会社登記閉鎖、で会社が消滅します。

(3)破産手続

支払不能や債務超過となっており、債権者の協力も得ることが難しい(一般債権者が多岐にわたる場合等)ような場合や公租公課等の優先的な債権を弁済するに足りる残存資産がないような場合、破産申立を選択することになると思われます。破産手続開始決定後、裁判所より選任された破産管財人が破産財団(破産者の資産の総称)を管理し、資産の換価や配当を実施します。管財人は、過去の破産者の行為についても調査し、破産者が破産申立前に、一部の債権者のみに弁済している場合(偏波弁済)や本来の価値よりも相当低い価格で資産を処分している場合(廉価処分)など、存在するような場合には、管財人がその行為を否認して、逸出した財産を回復する手続を行います。

一般債権者に対し、配当がなされるほどの財団が形成できない場合には、異時廃止として破産手続が終了しますが、配当可能な財団が形成できた場合には、債権者から債権届出がなされ、債権届出額の認否がなされたうえで認められた債権届出額に応じた配当がなされます。

具体的な流れとして、①破産申立、②破産手続開始決定、③管財人選任、④調査・財団の保全・換価業務、⑤債権者集会(通常、複数回定期的に実施され換価状況の報告等がなされます。)、⑥配当可能な財団形成があれば債権届出、なければ異時廃止で手続終了、⑦債権届出の認否、⑧配当表作成・配当実施、⑨終結・廃止決定、⑩終結の登記嘱託、⑪会社登記閉鎖、で会社が消滅します。

(4)放置された会社の取り扱い

最後の登記から12年経過した株式会社は、登記官の職権によるみなし解散が行われます。また、解散登記から10年経過すると、登記官は職権により登記を閉鎖することができます。しかし、いずれも法人が消滅するわけではなく、結局、会社を消滅させるには、清算手続を最後まで終了させて、清算結了登記をしなければなりませんのでご注意ください。

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